ホラー映画は好きだが、現実に異常な出来事をしたいわけではない。
それに、現実の世界はホラー映画より何倍も、horror(恐怖)である。
YouTubeで、あるhorrorな動画を見た。
原爆開発のプロジェクトリーダーだった、ロバート・オッペンハイマーの恐ろしく陰気なつぶやきである。
便利な世の中になったと感じると同時に、映像に残されたものには、後付で、作られた姿が映しだされていることにも気づく。
広島で少年時代を過ごした私には、ロバート・オッペンハイマーの名前は原爆開発者として深く記憶している。
ロバート・オッペンハイマー「今や我は死なり、世界を破壊する者なり」
「世界は二度と元に戻らないことを実感した。笑う者もいた。泣く者もいた。ほとんどの者は黙りこんだ。
ヒンドゥー教の聖典『バガヴァッド・ギーター』の一節を思い出した。ヴィシュヌが王子に自らの任務を完遂すべく説得するために四本腕の姿を見せて、こう言う「今や我は死なり。世界を破壊する者なり」。
多少なりとも私たち全員はそう感じたでしょう」
『ヒロシマを壊滅させた男 オッペンハイマー』
ピーター・グッドチャイルド(著)/池澤夏樹(訳)/白水社1982年
を読むまで、オッペンハイマーは、原子爆弾を開発したことを後悔したのだと思っていた。あまりの破壊力に恐怖して、とんでもないものを世界に放ってしまったと悔いたのだと。
しかしそうではない。
オッペンハイマーが、つぶやいているYouTubeの映像は実験直後ではない。
自ら開発した原子爆弾が生きている人間に使用されて、その悲惨さを知ってからだ。
直後にはどんな様子だったか。『ヒロシマを壊滅させた男 オッペンハイマー』にはっきりと描かれている。
友人のイザベラ・ラビがその姿を見ている。
彼も実験を観測していたひとりだが、爆発直後、手の甲が鳥肌立っていた。
「理由はわからないが、恐ろしくて、不吉で、心の底まで凍りつくようだった」からだ。
その後、s一〇〇〇〇陣地から帰ってきたオッピー(オッペンハイマー)を見て、再び鳥肌立った。
見たこともない男がこちらに歩いてきた。
計画を成功させたことで、自信に満ち、核爆発の結果を心から喜んでいる男の姿だった。
Trinity - The 1st US Nuclear Bomb Test 1945 (Long Version)
学者としては当然だろう。誰もが成し遂げられなかった困難極まるプロジェクトを、人類で初めて成功させたのだから。
ところが、優秀極まりない彼は、常識的な想像力が極端に欠落していた。
普通の常識のある人間ならば、実験結果を見ただけで、
これは武器に使用される。もう開発に関わってはいけない。と感じて、どんなことがあってもプロジェクトを中止させようとしただろう。
本来は、ナチス・ドイツが原爆を開発する前にプロジェクトを成功させるのが目的だった。
ロバート・オッペンハイマーはユダヤ人であるから、その思いは理解できる。
しかし、1945年5年4日、ナチス・ドイツは降伏している。
ロスアラモスでのトリニティ実験が成功したのは、1945年7月16日である。
目的はもうなくなっていたのだ。
しかし、彼は、プロジェクトを更に進めたかった。
学者として。
今も、世界中で、オッペンハイマーの末裔達が科学を「進歩」させている。
horror(恐怖)以外の何物でもない。
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