たぶん、ロシア史かソビエト連邦に興味のある人以外知られていません。
現ロシア大統領のプーチンさんは、KGB(ソ連国家保安委員会:カーゲーベーと読む)出身であることは有名です。
KGBが最初に組織化されたのは、ロシア革命以後です。
その頃は、チェーカーと呼ばれていました。正式名称を「反革命・サボタージュ取締全ロシア非常委員会」といいます。
このチェーカーを創設したのが、フェリックス・ジェルジンスキーです。
1917年12月のことでした。
1917年当時のロシアは、大混乱に陥っていました。
レーニン率いるボルシェビキは、暴力革命によって権力を奪取した後、自分達一部のエリートが、新しい国ソビエト連邦を統治すべきと思い込んでいたのです。
暴力で成した革命は、当然のことながら激しい反発を生みました。
その反対勢力を強権で抑え込む必要があったのです。
物理的に排除する必要があった。つまり監禁又は殺害です。
そのために作られたのが、チェーカー(反革命・サボタージュ取締全ロシア非常委員会)であり、創設者がジェルジンスキーです。
ひと言で表現すると、単なる人殺し
フェリックス・ジェルジンスキー個人は、崇高な使命感を持った理想家であったようです。
しかし、実際に行ったことから判断すると、単なる人殺しです。
それも、大量殺人者です。
正義の名の元に、大勢の人を拷問し、収容所へ送り、強制労働させ殺害しました。
本人は、貧しい人達を救いたいと心から願っていたようですが、方法を間違えたために悲惨な結果となりました。
歴史上ではよくあることなのですが、自ら質素で禁欲的な人間が権力を握ると、多くの人を不幸にします。
ジェルジンスキーは、一番権力を握ってはいけないタイプでした。
顔が怖い
顔写真が残っています。初めて見たときに恐怖を感じました。
ゲーテが『ファウスト』に登場させた悪魔ならこんな顔であろうと思ったのです。高徳なファウスト博士を誘惑する悪魔、メフィストーフェレスのことです。信念のある正義の悪魔。
自分に厳しく、他人にも厳しい男。険しい顔、冷酷に任務を遂行できる男の顔です。
理想を実行する信念と手腕はあっても、他人を愛することを知らなかった。
そういえば、ビクトル・ユーゴー『ああ無情』のジャベール警部にも似ています。彼がチェーカーの長になっていれば、ジェルジンスキーそのものだったでしょう。
一番不幸なのは誰だったのか
ジェルジンスキーは、20歳の時、労働運動を指導した罪のため、シベリアに流刑になりました。
警察の資料には、人として致命的な欠点が書き残されていました。
「この青年は、信念のためとあらば、どんなことでもやりかねない」と。
まさにその通りになったのです。
本来ならば聖職者や教師などに適正がある人間が、絶対になってはいけない職業に就いたのです。
チェーカーは、逮捕、尋問、裁判、処刑これらの権限をすべて持っていました。
恐ろしいまでの強大な権力をもった、秘密警察だったのです。
彼の人生を俯瞰すると、不幸もここに極まれりといった表現だけでは表現しきれない哀しみがあります。
彼自身も不幸だったと思われますが、彼に殺された無実の人々はどうでしょうか。
チェーカーは、現在のFSB(ロシア連邦保安庁)として生き残った
チェーカーは、名称を何度も変えて最終的にKGBとなりました。
そして、ソビエト連邦が崩壊後、現在のFSB(ロシア連邦保安庁)として生き残っています。
現大統領は、元KGB出身者として、存分にFSB(ロシア連邦保安庁)を活用しています。
今のロシアでは、プーチン大統領の権力を脅かす者は、謎の死を遂げるのが普通になっています。
ジェルジンスキーが作り上げた死神は、まだ生きているのです。