電磁パルス攻撃を、北朝鮮と米軍の両者共に検討しています。
高度数十キロから数百キロの高高度で核爆発させ、その時に生じる強力な電磁波を武器にする攻撃です。
地表に核爆発の爆風や放射能の被害はありませんが、コンピュータ制御のあらゆる電子機器の機能が停止します。
この電磁パルスで攻撃し合った場合、被害が大きいのは明らかに米国です。また、日本も同じく。
すべてのインフラをコンピュータに頼っている先進国は、インフラ基盤を破壊された時点で終わりです。
電話、インターネット、水道、交通網、ガス、電気、航空管制、病院、金融などの生活に直結したインフラは、都市化が進んだ国ではどれが欠けても人間が生存していけません。
都市の住民は水や食糧をめぐって暴動になるでしょう。
そして、北朝鮮の軍隊はハイテク化されていないので、ほとんど影響はありません。
電磁パルス攻撃によって核ミサイル発射を阻止できても、20万人いると言われている特殊部隊は抑止できないのです。
米国の特殊部隊vs北朝鮮の特殊部隊、どちらが強い!?(辺真一) - 個人 - Yahoo!ニュース
北朝鮮が特殊部隊に力を入れるのは、建国の父、金日成主席がゲリラ戦を得意とするパルチザン出身であったことと無関係ではない。金主席は1969年1月6日の軍党全員会議で「敵の後方に入って戦えば、原子爆弾よりももっと強力である」と述べたことがある。特殊部隊で中心的な役割を担うのは、軍総参謀部傘下の偵察総局と矯導隊指導局だ。
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北朝鮮の特殊部隊隊員の思想教育は特に徹底しており「将軍様の命令とあれば、爆弾を抱えて敵陣に飛び込むことも辞さない」との「特攻精神」で武装されている。実際に2009年4月に衛星と称する長距離弾道ミサイルを発射した際には日米のイージス艦による迎撃に備え、14人の空軍パイロットから成る特攻隊を編成し、爆弾を搭載して、そのままイージス艦に突撃する訓練を行っていた。潜水艦による北朝鮮武装兵士浸透事件で韓国軍に唯一拘束された李光洙人民軍偵察局上尉は「死を覚悟している者には怖いものはなにもない。そのような教育を受けてきた」と筆者に語っていた。
彼らは、米軍や自衛隊の歩兵のようにハイテク化されていない。その事が圧倒的有利になるのです。
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ここで目を転じ、現場で軍事の戦略・戦術を研究している者として、作戦レベルの視点から今後の朝鮮半島において予期されるシナリオを考えてみたい。
一般に戦争のレベルには、戦略レベル、作戦レベル、戦術レベルの3つがあると言われる。この3つの関係を学術的に体系化した「作戦術」に従えば、「作戦術」の本質とは、できるだけ短時間に、最小の兵力で、決戦に勝利することにある。朝鮮半島有事に際して、北朝鮮及び米国が、それぞれできるだけ短時間に最小の兵力で決戦に勝利するために考えられるシナリオの1つが、「電磁パルス攻撃」である。
電磁パルス攻撃とは、一般に高度数十キロから数百キロの上空で核爆発させた際に生じる強力な電磁波が、地上へ向かう際に大電流になり、電話やインターネットなどの通信回線、送電線、交通・航空管制システム、医療、金融システムなどの機能の大半を喪失させる。その際、地表には爆風や放射能による直接の影響を与えないが、長期にわたって社会インフラを機能不全に陥らせるものである。
この攻撃手法は、決して新しいものではない。1950年代、旧ソ連の大陸間弾道ミサイル(ICBM)による核攻撃からいかに国土を守るかは、米国にとって至上命題であった。落下速度マッハ20を超えるミサイルの防御は困難を極めるため、自国上空において自ら核爆発を起こし、そこで発生した電磁パルスによって敵ミサイルを迎撃することが考えられてきた。そして実際に1962年、米国は「スターフィッシュ・プライム」という核実験を行い、その効果を検証している。太平洋の約400キロ上空の外気圏で核爆発させたところ、爆心から1400キロも離れたハワイで停電が起こり、電磁パルスの効果が確認された。
北も電磁パルス攻撃に言及
北朝鮮は、トクサ、スカッド、ノドン、テポドン1、ムスダン、テポドン2の他、新型ICBMや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)といった多彩な種類のミサイルを多数保有している。特に、日本のほぼ全域をその射程内に収めるノドンは約200発保有し、弾道ミサイルの性能や信頼性は確実に向上している。また、核兵器は約60発保有していると言われ、2017年9月3日の『朝鮮中央テレビ』の重大報道によれば、北朝鮮はICBM搭載のための水爆実験にも完全な成功を収めているという。そして2017年11月29日、北朝鮮は米国を攻撃できる新型ICBM「火星15」の発射に成功し、金正恩党委員長は「国家核戦力完成の歴史的大業」を果たしたと宣言した。
これまで、北朝鮮のミサイルは日本の排他的経済水域(EEZ)内や日本を飛び越えて太平洋上の公海に着弾する形で発射されている。朝鮮半島問題をめぐる対話と交渉が続いている間は、この種のミサイル発射は想定されないであろう。実際、平昌五輪後に訪朝した韓国の特使団と面談した金正恩党委員長は、そう明言している。
しかしながら、ひとたび交渉決裂となれば、元の緊迫状況への復帰のみなならず、さらに深刻な事態へとエスカレートすることが大いに考えられ、それに備える必要がある。
2017年9月22日、北朝鮮の李容浩外相は、太平洋での水爆実験の可能性にも言及した。北朝鮮の強い政治的意志と高度な軍事的能力を誇示するために、様々な弾道ミサイルを躊躇なく使用することも容易に想定される。その場合、日本を飛び越えるコースで大気圏内において核爆発させる電磁パルス攻撃は、日本の米軍基地や自衛隊基地の使用を物理的に困難にするとともに、日本の政治機能、社会インフラを混乱させるための非常に有効的なツールに他ならない。また、電磁パルス攻撃は、北朝鮮の意志と能力を国際社会に見せつける上で、非常にインパクトの大きいものと言えるであろう。現に北朝鮮は2017年9月3日の『労働新聞』で、水爆実験の成功を誇示するとともに、電磁パルス攻撃の可能性にも触れている。
米国の最新兵器「チャンプ」
一方、米軍においても、北朝鮮の電磁パルス攻撃と似て非なる最新兵器についての検討がなされている。それは、「非核型対電子装置高出力マイクロ波発達ミサイルプロジェクト(Counter-electronics High-power Microwave Advanced Missile Project =Champ)」と呼ばれる兵器。この通称「チャンプ」とは、ドローン型の電磁パルス兵器であり、空中発射用の巡航ミサイルに搭載し、これを爆撃機から発射する。そして強烈なマイクロ波を照射して、標的としたコンピューターや電子機器のみを破壊するものである。北朝鮮が核兵器を使用する前に、それを無力化できると言われている。
この非核型電磁パルス兵器「チャンプ」をいつでも使えるという意志と能力があることを明確に国際社会と北朝鮮に示すことは、抑止効果を発揮し、対話と交渉を通じた朝鮮半島問題解決の糸口を得ることに繋がるかもしれない。その名が示すように、勝利者(チャンプ)のためのツールである。
今後の米朝による対話と交渉において、北朝鮮は、体制の維持とともに何を要求してくるであろうか。核放棄をちらつかせて、在韓米軍の無条件撤収、人道支援、経済援助、平和協定締結など、いつ何をどの程度の条件で突き付けてくるか、それに対し米国や中国、韓国、そして日本はどのようなカードを切ることになるか。
これまで、こうした対話と交渉の主導権をとってきたのは米国のように見えて、実質的には北朝鮮だったと言えるのではないか。対話・交渉という名の単なる核・ミサイル開発のための時間稼ぎであったと批判が出る所以である。
そうした経緯を踏まえ、今回こそは北朝鮮に主導権をとられることのないよう、電磁パルス攻撃を受けるという最悪のシナリオとなることがないよう、対話と交渉の主導権を、米国をはじめとした国際社会がしっかりとるための結束が、これまで以上に求められている。
下平拓哉 防衛省防衛研究所理論研究部主任研究官兼特別研究官付(政策シミュレーション)。国士舘大学政経学部非常勤講師。日本危機管理学会理事。1963年生まれ。国士舘大学大学院政治学研究科博士課程修了。1等海佐。政治学博士。米海軍大学客員教授(統合軍事作戦)を経て、2016年10月より現職。著書に『アメリカ海軍大学の全貌』(海竜社、2017年)、『日本の安全保障-海洋安全保障と地域安全保障-』(成文堂、2018年)。