今日の中国73 ファン・ビンビン(范冰冰)は行方不明のまま

人気女優、ファン・ビンビン(范冰冰)が6月から行方不明です。

すでに4ヶ月間以上。

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10月3日、中国版Twitterであるウェイボー上に、脱税への「謝罪の手紙」が投稿されましたが、ファン本人は姿を現しません。

まだ拘束されたままなのでしょう。

中国映画界の脱税は、「潜規則」(暗黙のルール)だった

国営放送の新華社通信によると、ファン・ビンビンは、約1億4000万元(約23億円)の脱税をしていたそうです。

8億8300万元(約147億円)の罰金を支払えば、刑事責任を問われないとか。

 

脱税は犯罪かもしれませんが、4ヶ月間以上も行方不明のままであることが異常な状態です。

 

中国の映画業界ではあたりまえに行われていた「陰陽合同」(表と裏の二重契約のこと)。

(出演料10億円の美女ファン・ビンビンのゴシップが民主化の兆し? | 李小牧(り・こまき) | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)

この暗黙のルールが同業者の告発によって破られたのです。

 

けれども、こんな巨額の脱税を、ひとりの女優さんだけで行えるはずはない。

税務当局の役人を含めた共産党の幹部が関わっているのは間違いないのです。

ファンは、明らかにスケープゴートです。

「謝罪の手紙」は「自己批判」の文章

ファン・ビンビンの「謝罪の手紙」は、まるで文化大革命時代の「自己批判」を思い出させます。

無理やり書くように指示されたのか、勝手に当局が作ったのか。

判で押したような反省文です

「欲に目が眩んで法を犯したこと、長年にわたり国家の利益より個人の利益を優先させたことを、心から恥じています。税務当局によって課せられた罰を全面的に受け入れます」

 

「今後は著名人として、自国の映画業界ならびに社会にとって良き手本となるよう努めていく所存です。信頼を裏切り、失望させてしまった国家と国民、ファンの皆さんに許しを乞うとともに、改めて深くお詫びいたします」

不気味な大国、中国

これほどの有名人であっても、共産党の権力維持のためには、突然何ヶ月も行方不明になる。

つまり、一般の庶民であれば拘束されてもニュースにもならないことを意味します。

 

人口が13億人を超える大国にもかかわらず、法律がまともに機能していない。

不気味な存在です。

news.livedoor.com

ファン・ビンビン巨額脱税、中国当局が狙い撃つ人気女優の利用価値
2018年10月5日 6時6分 iRONNA
富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授)

 

 ファン・ビンビン(范冰冰)は政争に巻き込まれてしまったのか、それとも軍の陰謀に利用されているのか―。杳(よう)として行方が分からなくなった女優をめぐり、中国のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)では8月ごろから盛んに怪情報が飛び交った。

 

 もっとも、ファン・ビンビンという名前を聞いても多くの日本人にはピンとこないかもしれない。だが、ハリウッド映画『X-Men:フューチャー&パスト』や『アイアンマン3』に出ていたアジア系の女優といえば、何となく顔が思い浮かぶのではないだろうか。

 

 その国際派女優、ファンの問題が、今では日本のお茶の間でも身近な話題となった。失踪の理由が脱税であること、欧米メディアが先行して報じ始めたからである。

 

 ファンの年収が50億円近いということも衝撃を与えたに違いないが、中国のメディア関係者によれば、「本当はその3倍、4倍であっても不思議ではない」という。

 

 いったい何が起きたのか。「今年6月2日を最後に彼女の微博(ウェイボー)が更新されなくなり、8月から騒ぎになり始めました。同じころ彼女のパートナーでやはり有名男優のリー・チェンのアカウントまで更新されなくなったのです。犯罪絡みであれば警察が放置するはずはなく、やはり当局の何かしらの捜査対象となったと見るのが自然でしょう」(同前)

 

 結局10月に入り、当局がファンと関連会社による約1億4千万元(約23億円)の脱税を認定、追徴金など約8億8千万元(146億円)の支払いを命じたと、国営新華社通信が報じた。ファンも微博で「法律を尊重すべきだった」と6000万人のフォロワーに向けて謝罪した。

 

 では、なぜこの時期に彼女がピンポイントで狙われたのか。まず飛び交ったのが政争への巻き込まれや軍の関与だった。だが、そんな大げさな話ではなかったのである。 というのも、彼女を名指しこそしていないが、実名で脱税を告発した人物が存在し、その影響がファンに及ぶことは早くからSNSで話題となっていたからだ。

 

 前出のメディア関係者が語る。「元CCTV(中国中央テレビ)の人気キャスター、崔永元氏の告発です。彼はCCTVに在籍中から、メディアの中で芸能界に横行する不正なお金の流れを告発するための資料を大量に保管していて、今回、その一部を暴露したといわれています。告発の動機は芸能界への恨みです」

 

 また、関係者はこうも語った。「崔氏は、もともと『国民的』とも称される人気キャスターだったのですが、キャスターをスキャンダラスに描いた映画『手機』のモデルにされたことで精神をやられ、最終的には職を辞すことになってしまった。それだけでも恨み骨髄なのに、そのグループが新たに続編の『手機2』を制作する予定だと知り、怒りが爆発したようです。攻撃の本命は映画監督の馮小剛(フォン・シャオガン)と、エンターテインメントビジネス界の雄、華誼兄弟伝媒(フアイー・ブラザーズ・メディア)グループの王兄弟ですが、彼女も一味と見なされたのでしよう」

 

 SNSでは、告発直後の6月にファンが崔氏に「あなたがそんなに傷ついていたとは知らなかった」と泣いて電話があり、それに対し崔氏が「知らないはずないだろう」と冷たく突き放したという話も流れている。いずれにせよ、これほど堂々と不正が告発されれば、ただで済むはずはなかった。

 

 しかも崔氏の告発は、後付けながら当局にとって実に利用価値のあるものとなったという。別のメディア関係者が語る。

 

 「中国はちょうど各地の税務局を国税局と一体化させる組織改革方案を7月20日付で発出したばかりで、新組織の船出に勢いをつける材料を探していた。そこに降って湧いたのがファンの事件ということです。組織改革の目的は、中央のコントロールの強化ですから、北京は勢いづくことでしょう」

 

 また、高額所得者の象徴である芸能界のスターからきっちり税金を取り立てたことは、中国がさらに力を入れる所得の再分配にも追い風となる。

 

 中国は今後の社会と経済の安定のために中小企業への手厚い保護と中間所得層の拡大を目標として定めている。前者の目的のため、8月20日には第1回となる中小企業発展促進会議を行っていて、また後者については低所得者のために大幅な減税に着手している。

 

 中国の納税者を可処分所得に従って5分割して、下から3段階を対象に減税を行っているのだ。「中国を過去に逆戻りさせた」と表現される習近平国家主席の政策は、常に「持たざる者」を意識して進められてきたが、その大きな流れから見た通り、ファンの脱税にも厳しい裁きが下されたわけである。 ただ、問題はファン一人が断罪されても収まらないという。

 

 「告発は芸能界の裏の体質を白日の下にさらしてしまった。当然類は他のスターたちにも及ぶでしょう。芸能界をはじめすべてのエンターテインメントビジネスにかかわる人々は、今やもう戦々恐々です。飛ぶ鳥を落とす勢いだった華誼兄弟も、当初こそ崔さんに反論していましたが、もうすっかり静かです」

 

 中国では映画の興行収入が日本の4倍を超え、数年で米国をも追い抜くと騒がれてきたが、その絶好調の映画界では、これから非常に冷たい風が吹き荒れることになるのだろう。