英国EU離脱の後、ドイツとフランスは再び争う

ヨーロッパのニュースは日本人にあまりピンときません。

ただ、世界中の隣国同士の関係ではっきりしている法則があります。

隣国同士は仲が悪い。

ほぼ100%です。

(例外として、喧嘩するほどエネルギーがない国々ではあるかもしれません。しかし、あくまでも特例です。)

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ドイツとフランスの仲の悪さは歴史が実証しており、過去数百万人規模の死者を出した戦争を経て、やっと我慢できるレベルに至っています。

英国EU離脱で関係悪化する

英国のEU離脱が迫っています。

ところが、英国自身よりもドイツとフランスの関係がギクシャクしているそうな。

EUは英国、ドイツ、フランスの3本柱でなんとか他の怠け者(国)たちの面倒をみてきたのです。

それが、ドイツとフランスの2本になる。

 

3人組の悪友たちは、いつもの悪口を言いあってきた。しかも英国に対しては、ドイツとフランスが結託して「あいつワガママだよな」などと攻撃できたのに、その対象がなくなってしまうのです。

そして、フランスがドイツに「お前、もっと金出せよ」と無茶な無心をしても、誰も止めてくれないらしい(他に経済規模で匹敵する国がないから)。

これまではEUの予算規模拡大という話に抵抗するには英国を当てにしていればよかった。ある独政府高官は彼が言う「愚か者の懐柔(編集注、予算拡大というとんでもない方向に話が行かないようにする)」には英国が重要な役割を果たしてくれたと明かす。誰か(例えば仏大統領)が突拍子もない提案をしたとしても、その提案を実施した場合の予測し得るコスト、法的問題、実現性などの問題をいつも英国が並べ立ててくれることを期待できたというのだ。

隣国関係で悩んでいるのは、日本だけではないようです。

www.nikkei.com

[FT]英EU離脱できしむ独仏関係

英EU離脱 ギデオン・ラックマン FT FT commentators

2019/11/28 23:00日本経済新聞 電子版

Financial Times

筆者が11月初め、ベルリンのある独政府高官の執務室を訪ねると、「ドイツにビザなしで来るのはこれが最後ですね」という冗談で迎えられた。とげのある挨拶だったが、英国やジョンソン英首相への敵意は感じなかった。むしろドイツが今、最もいら立ちを感じているのは、フランスのマクロン大統領だ。

 

これは、筆者が知る独政府関係者たちが突如、ジョンソン氏は素晴らしい人物で、英国の欧州連合(EU)離脱は素晴らしいという考え方に変わったわけでも、マクロン氏への尊敬の念が完全に消えたわけでもない。男女関係に例えれば、ドイツは英国のことは完全に「吹っ切れて」おり、そのためもう怒りは感じていない。だが、フランスとはいわば長きにわたる機能不全の婚姻関係にあり、身動きが取れずにいる。離婚はあり得ないが、仏へのいら立ちは募るばかりという状況だ。

 

■独はもはや英離脱を進めようという方針

メルケル独政権は、英のEU離脱は不可避なので、ならば離脱を進めようという方向で方針を固めたようだ。かくしてジョンソン氏には前向きな姿勢で接しており、メイ前首相より議論がしやすく、理解しやすいという印象を受けている。独政府は、ジョンソン氏に今度こそ何とか英議会から離脱協定案の承認を取りつけてほしいと願っている。英国内の離脱反対派は、12月の英総選挙で(多数派政党がいない)ハングパーラメントになって、EU離脱を問う2度目の国民投票が実施されることを切望しているが、これは独政府には歓迎されないシナリオだ。

 

独政府は、ジョンソン氏が離脱後に英国の規制を現在のEUの規制の枠組みから大きく離れたものにしたいとの方針を示しても、憤っている様子もない。ある独高官は、英国が離脱でEUの規制から逃れられるのでなければ、離脱する意味がないと気にするそぶりもみせない。

 

もっとも、離脱交渉に深く関わってきた独外交官らは、英国がEUの規制の枠組みから大きく離れることになれば、離脱後の第2の交渉となるEUとの貿易協定を巡る交渉がいかに複雑になるかを英政府が十分に理解していないとの不安を募らせている。彼らは、英国が再び準備不足のまま非現実的な期待だけを膨らませて交渉に臨んでくるのではないかと懸念している(筆者注、彼らのこの懸念は正しい)。

 

■EUでは英が独にとり便利な存在だったが

とはいえ独政府は心理的にはもはや英離脱にはとらわれていないようで、既に英国なしのEUに順応しつつある。ただ英離脱でドイツにとっては物事がシンプルになるどころか、かえって事態は厄介になりつつある。

 

例えば、英国はEU予算の主要拠出国の一つだったため、英離脱によりドイツの負担は当然、大幅に上昇する。加えてEUに加盟する南欧諸国はEU予算の大幅拡大を望んでおり、その増加分はドイツが負担すべきだとしているため、ドイツはこれらの南欧諸国と既に鋭く対立している。ドイツはEUに拠出する予算規模は国内総生産(GDP)の1%を超えてはならないという立場だが、この一線を死守できてもEUへの年間拠出額は100億ユーロ(約1兆2000億円)ほど増大するとみている。

 

これまではEUの予算規模拡大という話に抵抗するには英国を当てにしていればよかった。ある独政府高官は彼が言う「愚か者の懐柔(編集注、予算拡大というとんでもない方向に話が行かないようにする)」には英国が重要な役割を果たしてくれたと明かす。誰か(例えば仏大統領)が突拍子もない提案をしたとしても、その提案を実施した場合の予測し得るコスト、法的問題、実現性などの問題をいつも英国が並べ立ててくれることを期待できたというのだ。

 

「英国人が全部やってくれたので、私たちは何も言う必要がなかった」と、ある独外交官は未練がましく語る。

 

■EU改革望む仏と国内政治闘争に明け暮れる独

マクロン氏は11月22日号の英誌エコノミストに載ったインタビューで「北大西洋条約機構(NATO)は脳死状態だ」と発言し、独政府関係者に大きな波紋を広げた。奇妙な話だが、ドイツはマクロン氏によるNATOへの批判、特にトルコによるシリア侵攻や米国のNATOに対する後ろ向きな姿勢について反論するわけではない。ただ、仏大統領が公の場で西側の軍事同盟を激しく非難するのは、極めて思慮を欠く行動だと考えているのだ。

 

フランスがロシアとの関係を修復しようとしていることもありマクロン氏の発言には、ポーランドなど中欧のEU加盟各国は警戒感を募らせた。ある独政府関係者は、フランスにはポーランドが抱く危機感は遠く離れた問題でしかないが、「我々がいるベルリンはポーランド国境から80キロメートルしか離れていない」とドイツはポーランドの問題を深刻に受け止めていると話す。

 

マクロン氏が最近、ますます歯に衣(きぬ)着せぬ発言をしている背景には、EUの防衛からユーロ圏まで全分野を網羅した自らの抜本的なEU改革案に、メルケル政権が非常に慎重な態度しか示さなかったことへの不満がある。フランスは、ドイツがかくも慎重なのは今の国際情勢の深刻さを理解していないからだと考えている。また、ドイツは以前にも増して国内の政党間の争いに明け暮れており、それがメルケル政権をさらに内向きにし、動きも鈍くなるとして、懸念を募らせている。

 

だが、ドイツにはこうした問題を抱えているという自覚はない。ある独政府高官は、マクロン氏が自らの側近をも驚かせる過激な言動によってEU各国から不満や議論を招く傾向があることについて、「(米大統領の)トランプ氏的行動の知的バージョン」と評する。独政府関係者らは、本当の進歩は、メディアに派手な見解を述べるより、細部にまで配慮した忍耐強い外交努力によって達成されるものだと指摘する。

 

英国は、EUの前身である欧州共同体(EC)に1973年に加盟して以来約50年、たびたび「仏独カップル」の蚊帳の外に置かれてきた。だが皮肉にも英国がEUを離脱しようとしている今、英離脱がその独仏関係に予想しなかったような不安定さをもたらしている。

 

変わらないのは独仏が互いに根底では相手の存在は自国に不可欠だとみている点だ。ある独政府関係者はこう語ってため息をついた。「我々ドイツとフランスは何があってもその関係をうまく機能させなければならない」

By Gideon Rachman

(2019年11月26日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/