感動のルポ し尿汲み取り作業の潜入『裏モノJAPAN』リポート

東京都でのし尿処理作業の潜入ルポ。

『裏モノJAPAN』編集部の野村竜二さんがリポートしています。

誰かがやらなくてはならない仕事であり、誰もが嫌がる仕事です。

これは菩薩の仕事です。

東京都でのし尿汲み取り作業のほとんどは簡易トイレ

東京都の下水道普及率は99.6%。

つまり家庭での汲み取りはまずない。

それでも仕事があるのは、河川敷や工事現場に置かれている簡易トイレのためです。

簡易トイレに救われた話

30年ほど前、大阪府南部へ仕事のため夜中に行ったことがあります。

午前1時を過ぎていました。

自動車を駐車場に置いて休んでいるとどうも腹の調子がおかしい。

近くのコンビニに行ってトイレを貸してくださいと頼んだのですが、当時コンビニはトイレを貸してくれなかったのです。

まだ我慢できるかと思ったので、車に戻ったがやはりこれはイカンとなる。

駅に行けばと線路伝いに歩いてみたが、もちろん駅は閉まっている。

全身汗びっしょりとなり、もう道端でお尻を出し側溝にでも用を足そうとまで思いつめていると。

道路脇にぽつんと簡易トイレがあるではないですか。

救われました。

 

お腹を壊しやすい人には簡易トイレはまさに神の采配です。

人ごみの中で糞まみれになることは、死ぬより辛いですから。

こんなに嫌がられる仕事なのに

あの時出したうんこも誰かが汲み取ってくれているはずです。

作業のルポを読むと、バキュームカーで移動中にはコンビニの駐車場に停めることもできないのです(店に嫌がられるため)。

工事現場に行けば若い作業員から「チッ、くっせーなあ。はやくしろよ」などと言われる。

不条理です。

 

ベテランの41歳先輩は、年収450万らしい。

安すぎる。

“菩薩”といえば、佐藤優がよくわからんことを書き出した

佐藤優が著書の中で、ある巨大新興宗教団体の長を「現代の菩薩である」と表現していました。どんだけ洗脳されてんねん、あんたキリスト教徒だろとツッコミたくなりましたが、個人的に崇拝し応援するのは勝手です。

しかし、この場合“菩薩”との表現は大げさです。

菩薩とは一般的に

仏の次の位のもの。みずから菩提(ぼだい)を求める一方、衆生(しゅじょう)を導き、仏道を成就させようとする行者(行者)

と定義されています。

日本人の感覚であれば、黙々と周囲の人々の幸せのために生活している人を指すのでは。

誰にも言われたわけでもなく公道を掃いている人や嫌がられながらもバキュームカーでうんこを吸い取ってくれている人にこそふさわしい言葉が“菩薩”なのです。

 

佐藤優、たくさん本を読んで勉強しても最終的な価値判断がこれでは、「知の巨人」との名称が泣きます。

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■ご飯を買いたくてもコンビニに停められない

 そんな話をしているうちに車が人通りの少ない道に停車した。まだ河川敷には着いてないのに、どうしたんだろ。

 「おう、今のうちにメシを買っとかねえとな。そこのコンビニでおにぎりを二つ買ってきてくれ」

 そう言いながら数百円分の小銭を渡してきた。なんでわざわざこんな場所に路駐したんだ? 

 「コンビニの駐車場に停めると文句言われることがあるんだよ。汚いからどけろってな」

 なるほど。職業差別はダメだといっても、バキュームカーには近寄りたくないかもな。ちょっと、心が痛い。

 「お前の分もおごってやるから、早く行け!」

 走ってコンビニまで行って、適当におにぎりを見繕う。言葉は乱暴だけど、根はイイ人そうだ。

 それから数分乗車して、河川敷に到着した。いよいよ、仕事のスタートだ。

 颯爽とバキュームカーから降りた浜口さんが車体に固定してあるホースを外しながら説明してくれる。「これを持ってついて来てくれるか?」

 直径20センチくらいのホースを受け取って、仮設トイレの裏手に回った。

 「種類によって、し尿を溜める場所はちがうんだけど、たいていは裏側から汲み取るんだよ」
「はい。わかりました」

■下痢便を何時間も鍋で煮込んだような

 浜口さんがしゃがみこみ、トイレの下の方にあるフタをカパっといとも簡単に外した。そこにはドロドロの茶色の液体が並々と溜まっている。うげー、気持ち悪い! 

 「これが汚泥ってやつ。ウンコは時間が経つと、こういう風に液状になるんだよ」

 見た目の衝撃から少し遅れて、激烈な腐臭が鼻の奥に突き刺さった。く、くっせー? なんじゃこりゃ。アンモニアの刺激臭と発酵したウンコが混ざってる。今までの人生で嗅いできたものの中で一番強烈だ。下痢便を何時間も鍋で煮込んだような凝縮された腐臭だ。

 「うわっ!  ニオイがスゴイっすね!」

 自分でもわからないが一気にハイテンションになってきた。

 「ははは。ここは汲み取りの回数も少ないから、より一層キツくなるんだよ」

 いやあ、目に染みる。涙が出てきた。

 「じゃあ、それをこの中に突っ込んでくれる?」
「わかりました」

 言われた通り、ウンコの海の中にホースを入れる。これでいいのかな。「じゃあ、汲み取りを始めるね」

 浜口さんがバキュームカーに駆け寄って、なにやらボタンを押した。ズ、ズズズズ。という音が聞こえて、溜まっていた汚泥がみるみるうちに減っていく。スゴイ!  さっきまでたっぷりあったのに、数分でなくなってしまった。いやあ、これがバキュームの威力か。

 「よし、じゃあ次に行こう」

 なんとか1件目の汲み取りが終了。ニオイはハンパじゃないけど、作業自体は体力を使わないから楽だったな。

■固まっているときは仮設トイレを傾けて…

 次の場所も同じく河川敷の仮設トイレとのこと。車に乗り込み1キロほど移動し到着した。今回は男女が別々に分かれている。さっきと同じ要領で裏側にあるフタを外す。まずは男子トイレからだ。

 くー、やっぱり、ニオイが強烈だ。すぐには慣れそうにない。ホースを突っ込んで汲み取り開始。うーん、奥の方にウンコが固まってて取りにくいぞ。

 「野村、そういうときは仮設トイレを傾けるといいんだよ。ちょっとやってみな」

 浜口さんにホースを任せ、反対側の正面に回り込んだ。「上の方を押してくれるか?」仮設トイレを押して、浜口さんがいる方に傾ける。すごい、簡単に持ち上がった。びっくりするほど軽いぞ。

 「おーし、そのまま、そのまま。はい、オッケー」

 無事に汲み取りが完了した。

 「仮設トイレって全体がプラスチックでできてるから、かなり軽いんだよ」

 なるほど、一つ勉強になったぞ。

 男子便所が終わったので、次は女子だ。あれ?  男子便所に比べると汚泥の量がかなり少ないぞ。やっぱり、女性は汚い仮設トイレで用を足すのに抵抗があるのかもしれない。

 とはいえ量がなくとも、女もウンコのニオイは一緒だ。クサイことに変わりない。すばやく作業を終わらせるため、今度は浜口さんが傾ける役をやってくれた。ズ、ズズズズズ。もう少しで汲み取りが終わる、というところでビチャっと汚泥が袖にかかった。

■便器にゴミを入れる人間はメチャクチャ多い

 「うわっ!  きたね!」

 どうやら生理用ナプキンが吸い込まれる途中で、パイプに当たり汚泥が跳ね返ったみたい。もう、サイアク……。

 汲み取りが終わり、浜口さんが戻ってきた。

 「どうした?  大丈夫か?」
「すみません。ウンコがかかっちゃって……」

 ニヤつく浜口さん。なにがそんなに面白いんだよ。

 「おいおい、キレイなままで帰れるわけねえんだから、最初のうちに汚れてラッキーくらいに考えとけよ」
「はあ、そういうもんですか」
「汚れないように仕事してると、怪我するから気をつけろよな」

 たしかに、汚れてしまえば、あとはなりふり構う必要もないし一理あるような気がする。確認のために、おそるおそる、クソのかかった袖を嗅いでみたが、やっぱりニオイはウンコだった。

 その後、河川敷にある4つの仮設トイレの汲み取りを終えたところで、遅めの昼休憩をとることになった。ちょうど折り返し地点だ。

 ここまでで気がついたのが、便器の中にゴミを入れる奴がメチャクチャ多いこと。ゴミ箱と勘違いしてんのかよ。まったく。ビニール袋などの異物がホースに入るたび、汚泥が飛び散って服にかかるので、本当に困る。

■「若いころから、他人と一緒に何かやるってのが苦手でな」

 「おい、野村。メシ食わねえのか?」

 大量のウンコを見て、食欲なんぞ消え失せていたが、浜口さんに奢ってもらった手前、食わないわけにもいかない。

 「おにぎりいただきます!」
「おう、食え、食え」

 にしても、この人はどんな経歴なんだろう。かなりのベテランっぽいけど……。

 「浜口さんはどうしてこの仕事を始めたんですか?」
「どうしても、なにも、金をかなりもらえるからだよ」

 へー、どれぐらいの額なんだろう。失礼だけど聞いてみよ。

 「ちなみにおいくらくらいなんですか?」
「まあ、教えてもいいか。だいたい年に450万くらいかな」

 おお、確かになかなかいい金額をもらってますなあ。

 「俺の年齢からすれば平均より低いくらいだろうけど、今までに比べれば十分だよ」

 ここから浜口さんの自分語りが始まった。彼はいま41才で独身。この会社の前は宅配便の配達員をやっていたらしい。「若いころから、他人と一緒に何かやるってのが苦手でな。なるべく人と関わらない方がラクなんだよ」

 勝手に社交性のある人だと思っていたのだが、そうでもないらしい。

 「だけど、勤めてた宅配会社が潰れたわけ。それでこの仕事に転職したんだよ」

■「親には本当の仕事は伝えてない」理由は…

 一般的には3Kの代表とされる仕事だけど、抵抗はなかったのだろうか。「うーん、俺自身には全くないけど、親には本当の仕事は伝えてないよ」

 汲み取り屋ではなく、普通の清掃会社に勤めていると言ってあるらしい。

 「やっぱり、世間体はあんまりよくないじゃん。特に母親は自分のことを責めそうなんだよ」
「というと?」
「もっとちがう育て方をしてれば、息子にクソを掃除させずに済んだかも……。みたいな感じで。俺は何も気にしてないのにさ」

 なんとも胸に迫る話だ。

 「さ、そろそろ、午後の汲み取りに向かうぞー」

 よし、あと少しで今日の仕事も終わりだ。ウンコを片づけに行こう。

 次の仮設トイレはマンションの建築現場の中だ。

 「お疲れ様でーす」

 浜口さんが現場監督となにやら話をしている。よし、いまのうちにホースを準備しよう。車体から取り外して、仮設トイレに向かう。我ながら板についてきたぞ。そこに浜口さんが戻ってきた。

 「おっ、仕事が早いな。その調子だ」

 やった。褒められたぞ。