格闘マンガが好きだ。
『はじめの一歩』
『TOUGH-タフ-』
など、作者の都合か編集からの圧力なのかわからないが、延々と続くであろう物語はなかなか妙味がある。
途中から話がよくわからない方向へ行きながらそれでもひたすら続く。
『軍鶏』もその一例である。ただし、こちらはもう終了している。
主人公が親殺しであることが、よくある格闘マンガとは一線を画す。
あらすじ
16歳の少年、成嶋亮が両親を惨殺する場面から始まる。
理由は本人にも誰にもわからない。
彼は少年院へ送られ囚人からそして看守からも凄惨なイジメを受ける。可愛らしい容貌なのでオカマを掘られたりするのだ。
あまりの辛さに自殺すら考える主人公。しかしある終身刑囚(殺人犯のジジイである。刑務所から教育係として派遣された)黒川健児から空手を学んだことにより強くなりまた格闘技にも目覚めてゆくのだ。
ここで一般的な作品ならば格闘技を通してまともな人間に更生するが、この物語では強くなってもより暴力的になるだけで主人公はその暴力を楽しむことでしか生きていけない。
ラストまで謎は残る
世界中の物語や神話には、親殺し、そして子殺しが描かれている。
何故なら、親子は愛しあい憎みあう関係だからだ。
昔も現在も変わらない。
かといって現実に、憎しみが殺人にまで進行することは稀だろう。
よほどの理由がいるはずだ。
『軍鶏』では最後まで、成嶋亮がなぜ両親を殺したのかは謎のままだ。
親に精神的に殺され続けたとはどういうことか。
誰もが親に殺される。
親は子を支配しようとするのが普通だから。
成嶋は「まとわりつくような生暖かい愛情」に殺されると思ったので先に殺したと述懐するが、その理由だけではちょっと弱い。
そんなことだけで親を殺していれば、日本中の親は半減するだろう。
両親惨殺の場に居合わせた妹の夏美も少年院での面会時に「わかるような気がする。お兄ちゃんの気持ち・・・・・・」と言っている。
よほどのことなのだ。この家族の愛憎関係は。
親殺しの理由だけはなんとか表現して欲しかった。
全体としてトリッキーなストーリー展開が楽しい
ライバルの空手家、菅原直人がいる(菅直人ではない)。
藤原紀香みたいな船戸萌美(菅原直人の恋人)が笑える。そっくりではないか。
本人に許可は取ったのだろうか。
菅原直人との対決後、成嶋亮は中国へ行く。覚醒剤中毒である妹の生活費や治療費を稼ぐためだ。地下格闘技で戦う(この設定もツッコミどころで、「いや、日本で用心棒でもしたほうが金は稼げるんじゃね」となるが、経済マンガではなく格闘マンガなので無粋である)。
ただし、途中から違うマンガを読んでいたのではと自分を疑いたくなるくらい話が変わる。地下格闘技で無敗であった成嶋亮は斉天大聖と名乗る隻腕の中国人に敗北する。
斉天大聖を倒すため彼を育てた師である老人に弟子入りする。中国の山奥へ行くが、そこには燕という名のツンデレ美少女がいた。
そこで彼女と修行と称する特訓をする。
こんな感じ。
ん~?既視感がある。『らんま1/2』ではないか。
ラストはなんと『もののけ姫』なのだ。
シシ神様が登場する。ネームではニホンカモシカになっているが。
そりゃあないぜ。
伏線として登場し成嶋亮に壊されたユーリと菅原がほったらかしでは意味がない。
夏美がペロに読んであげている絵本では鬼と姫が愛し合い鬼世界からも人間世界からも追われる。
鬼を愛した姫とはユーリと菅原だったはずではないか。
その他の彼と戦った亡者たちも彼を愛したが死んでしまった。もちろんそこに両親も含まれる。
生き残ったユーリと菅原が姫として、鬼である成嶋亮と共に生きることこそ意味のあるラストでは、と個人的には思っている。
でも作者があのラストを選んだのなら仕方ない。
全巻Kindle版で購入したのも後悔はなし。