福祉の現場で、大勢の統合失調症の患者と話す機会がありました。
精神医学が進んだ現在でも難病です。かつては分裂病と呼ばれていました。
症状が個別に違うため、統合失調症の改名は本質的に正しいと思われます。
ある患者は、50代過ぎでしたが総入れ歯でした。
薬物療法を受け、状態が落ち着いている時に話をする機会がありました。
大学生の時に発病し、講義中に講師が自分の記憶を盗んでいるという妄想に取りつかれました。その方法は、歯の中に盗聴器を仕掛けられているというものでした。
彼は、自宅に戻り、ペンチですべての歯を抜いたそうです。もちろん、麻酔もなしに。
そのまま、即入院です。
ゾッとするような話でしたが、その時の本人には病識が無く、彼の妄想は彼にとって現実そのものでした。
統合失調症の症状の主なものに、このような妄想があります
患者の脳を診断すると、健常者に比べて、側頭葉や前頭葉が数ミリ程度萎縮しているいことも分かっています。
統合失調症は、100人に1人がかかる病気です。この割合は相当に高いといえます。
電車に100%乗車しているとして、1車両に1人患者がいる計算です。
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』とユングの世界
DVDにあるオーディオコメンタリーが笑えます。
監督の押井守と声優の千葉繁たちが映像を観ながら、製作時の状況を話しています。
押井守のシュールな世界観が表に出過ぎ原作から離れていしまい、原作者(高橋留美子)の逆鱗に触れたとか。
声優がおばさんばっかりで、芸人の集まりだったとか。
そんな中で、押井監督のある話にはっとさせられました。
作品の中では、あたるやラムを含む友引高校の人々が、学園祭前日を繰り返し、その秘密に気づいた者から消されていきます。
温泉マーク先生が消された時、サクラからかけられた電話が、誰もいない学校で鳴り響くシーンがあります。印象的な場面です。
その場面は、押井守の高校生時代からの妄想を元に創作したものらしいのです。
「誰もいない場所で電話が鳴っている」
「電話をかけた瞬間、世界中から誰もいなくなっている」
この話は、心理学者のカール・グスタフ・ユングの体験に似ています。
「空間が霊的な存在に満たされているような奇妙な感じを受け、家の内部もなにかにとりつかれるようになる。・・・・・・日曜日の午後五時ごろ、玄関のベルが狂ったように鳴りはじめる。みな、すぐに、だれかがそこにいるかと見まわした。しかし、だれひとりいない。思わず、みな顔を見合わせるばかりだった。」
こういう深刻な自己記述からすると、ユングは当時ノイローゼというより精神病のほうへ足を踏みはずしていたのかもしれない。『ノイローゼ』p58 宮本忠雄より引用
押井守監督も統合失調症の傾向があるのかもしれません。